電力に関する本:「水力発電が日本を救う」と「デジタルグリッド」

最近、短い時間ではあるが、ドイツでは再生可能エネルギー(RE)の割合が電力の85%を占めたとのニュースが飛び交った。
ドイツ、再生可能エネルギーが電力の85%を記録! それを積極的に支える小さな村々
ドイツの新記録!電力の85%が再生可能エネルギーから
ドイツで再生可能エネルギーが最大85%の電力供給

ドイツのREは北方では風力発電、南方では大陽電池という構成だ。RE由来の電力は変動が避けられない。不足するときもあれば余ることもある。ただ、ドイツは周辺国とグリッドで繋がっており、遣り取りすることができる。単純にドイツ流を真似れば良いと言うことでは無い。
では、日本は?という問いかけに対する、一部であるが一つの答えが、竹村公太郎の「水力発電が日本を救う 今あるダムで年間2兆円超の電力を増やせる」。奥付を見ると昨年の9月に一刷、12月には三刷となっている。実際、横浜市立図書館や都内の図書館には多目の複数冊が所蔵されている。出版元である東洋経済新聞社やその他のサイトで、副題(今あるダムで年間2兆円超の電力を増やせる)にあるようにダムを新設しなくても現代のテクノロジーを活かせば現在の2倍以上の発電ができるという主張は興味深く感じていたが、実際に購入して読むと竹村氏の主張が良く理解できた。それは、単に地勢的・技術的問題だけでなく、ダムを作るに当たって多くの元住民の住居・生活・思い出が水底に沈んでもう帰って来ないという犠牲は忘れてはならないということとそれを単に犠牲のままにしないで、永遠に続く電力という遺産として子孫に残すべきと言う主張である。多年に亘って行政の立場からダム建設に携わって来られた方ならではの実感であると思う。日本は短い川が全国均一に分布しているので、地域の小規模分散型電源として水素の製造・貯蔵技術とリンクして活用すべきという主張である。
ダムは鉄筋コンクリートだと思っている人が私の周囲には多い。鉄筋コンクリートは人類の大発明である。鉄とコンクリートの線膨張係数をネットで調べて頂くと分かるが殆ど同じである。だからこそ大規模なビルや橋梁などに使う事ができる。(私は電気化学で研究生活をスタートした人間である。実験には白金電極をガラス管を用いて封止する技量が求められた。ガスバーナーで暖めて白金線や白金板をガラスで封止するのだが、丁寧に処理しないと、暫く使っていると電解液が白金とガラスの隙間を通ってガラスチューブの中に入ってくる。なお、ガラスと白金の線膨張係数も比較的近い。)
ダムには鉄筋が入っていない。確か、小学校の遠足でダム見学に行ったとき、コンクリートは水の有る所では時間が経つほど丈夫になりますという説明が印象に残っていたが、その通りというか更に詳細に説明されている。
竹村氏の書きぶりは、厳密さよりは主張したい論点は遠慮無く繰り返していることであり一般向けに分かりやすい内容となっている。日本水フォーラムの理事長でいらっしゃるが、仕事を務めるなかでポイントとなる視点、パラメータを歴史などにも向けられている。「日本史の謎は「地形」で解ける 」、PHP文庫(2013)
水力発電は輸送できない。グリッド(電力網)で電気を送るか、余剰の場合は水電解で水素に転換して貯蔵し、輸送するかということになる。FCV用の水素タンクは70MPa(700気圧)だが、液化、メチルシクロヘキサン、アンモニア等の形での輸送が想定されている。ドイツ等ではガス配管に水素を入れることが許されている。

さて、分散型電源を活用するときに重要なのがグリッド(電気のネットワーク)形成である。現在の送電は交流が基本である。交流を繋ぐときは電圧だけでなく位相が揃っている必要がある。残念ながら日本は西日本は60Hz、東日本は50Hz と周波数が異なっており、この狭い国土の中でも電力の融通に制限がある。また、大陸との間には送電線は無いので、遣り取りはできない。ドイツと比較すると、REのうち、太陽光発電(PV)に対して、風力発電については、いわゆる”風況が悪い”状況にある。平で広い土地があれば風の動きは安定しているが、日本のように急峻な山が国土のかなりの部分を占めている地形では、風は変動しやすくなる。更に、夏場には強力な台風が攻めてくる。そのような状況では、”トイレ無しマンション”と言われても原発を直ちに全停止という訳にはいかないだろう。日本の状況に即した電力網作りが求められている。今さら、周波数を統一という訳にはいかない。その一つの解になるのではと期待してしまうのが、阿部力也氏の提唱される、”デジタルグリッド”である。ネット検索して頂くと、講演のパワポや動画をご覧になれると思うが、ざっくり言えば、分散型電源を、高効率インバータを中核にしたユニットにインターネットのように番地を付与して、ネットに繋ぐ方式である。人工衛星のGPS信号を同期信号の基準に使って位相を揃える。電源元の出自が確定することで、細かな電力売買の契約が可能になる。この手法は既存の電力線が活用できるので、無駄な設備投資を抑制できる。また、インバータには高耐圧の半導体素子が必須であるが、この技術には日本の半導体技術を活かすことができる。理科が好きな方もオームの法則はばっちりだが、交流になると、インダクタンス、リアクタンス、コンダクタンスなどとタンスだらけでとたんにちんぷんかんぷんの方が多くなる。直流送電法を進めていたエジソンの部下であったニコラ・テスラが交流送電法を提案したときにエジソンはその価値を認めず、ニコラ・テスラは会社を辞めたが、その後、ライバル会社(ウェスティングハウス)に拾われて、見事、ナイアガラの滝の送電に活かされた歴史が思い出される。・・・とにかく、グリッドの話を理解するにはその交流送電を理解しないとその新技術(デジタルグリッド)の真価が分からないとういことで、「デジタルグリッド」、エネルギーフォーラム(2016)の前半は交流法についてたとえ話を用いながら説明している。また、電力業界の特徴・通弊なども説明されている。上記のダムと同様、技術だけではダメで、普及・運用の段階では展開先の状況を理解しておく必要がある。電力業界の歴史にご興味の有る方は、少し厚手だが、橘川武郎、「日本電力業界のダイナミズム」、名古屋大学出版会(2004)が興味深いのでお勧めだ。自動車等と違って、電力業界については、日本は欧米と殆ど並行して発展していったことが分かる。
FCVの普及にはCO2フリー水素が必須である。REの価格の低下に繋がるトピックスには注意していきたい。

補足1.
 上記の水力発電の本には昔の日本の山ははげ山だったと書かれている。山の緑が復活したのはエネルギー源を木炭から石炭・石油に変えてからである。
小学校で地図を習った時不思議に思われた方は無いだろうか?どうして畑や道路のある低地が緑に塗り、で木が茂っている山を茶色に塗るんだろうと。逆ではないか?これは近代の地図は欧州で図法が確立されたことによる。欧州は冷涼で乾燥した気候であり、ウールを着るため羊を飼い、煉瓦の家に住むために山の木は無くなったためだ。それに対して、温暖なモンスーン地帯にある日本では海外からのエネルギー供給が可能になってからは、豊かな水資源に支えられた山の色は高山を除けば緑色だ。

補足2.以下、METIの案内です。傍聴申込みの締切は5月23日(火)です。
 ”「再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題に関する研究会」を開催します”
  経済産業省 平成29年5月19日(金)
  http://www.meti.go.jp/press/2017/05/20170519005/20170519005.html

補足3.少し古いですが。

NHK 時論公論 「日本は水素で世界をリードできるか
2015年02月20日 (金)
片岡 利文 解説委員
 
 

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