触媒の原則:吸着無くして反応無し

昔、フロン(CFC:chlorofluorocarbon)が南極のオゾン層破壊を引き起こすということで、代替フロンの開発に携わった。最初に開発されたフロンは冷媒用のCFC-12(化学式=CCl2F2)である。空調はカルノーサイクルの逆サイクルを利用する。その冷媒としてはアンモニアなどが用いられる。しかし、たとえば、海中の密閉空間である潜水艦には空調が必須だが、敵の襲撃を受けて猛毒・可燃性のアンモニアが漏れると大変な事になる。無毒・不燃性のフロンガスは救世主となり、カーエアコンなどを初めとして広く使われるようになったが、大気中に放たれると、その安定性のため上空のオゾン層まで達する。そこで始めて紫外線の作用で分解し、塩素ラジカルが発生することで、オゾンを分解するというメカニズムが1 9 7 4 年のN A T U R E 誌にアメリカのRowland博士らにより発表された事を契機として代替フロンが開発されることになった。
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無毒・不燃性・同一の冷媒物性を確保しつつ、適度な安定性を有する代替化合物を合成することになる。上記のエアコン用冷媒であるCFC-12の代替物質は、Cの数が一つ多い、HCFCー134a(化学式=CF3CH2Cl)である。空気中のラジカルによるアタックを受けやすいHが含まれている。この化合物を製造するための触媒を開発する任務を1987年9月1日に上司から指示され、直ちに基礎実験室を含む管理棟からベンチ実験棟に移ることになった。気相反応である。それまで、気相反応や触媒製造の経験が無かった私には、まさに驚天動地、関東大震災(9.01)、3.11震災並みの大事件であった。しかし、大学時代に行っていた金属電析の形態に関する研究で馴染んでいた電極表面における吸着現象とのアナロジー性から、首尾良く、Pd-Au合金触媒を短期間で開発することができた。元素としてはPdがベストであるが、反応選択性と耐久性が十分ではなかったが、Auを加えることで、選択性を向上することを狙った。Auは不活性で融点が低い元素なので、当初は活性と耐久性については自信が無かったが、できた触媒は選択性・活性・耐久性と三拍子を備えたものであり、金で活性が上がることには大いに驚いた。企業の仕事であったので、当時、詳細を公開することは無かったが、密かに自負した。しかし、丁度同じ頃、当時の大工研の春田正毅氏は金そのものが触媒になるとの研究を発表され大いに驚いた。その後のご研究で反応の主戦場は金粒子と接する担体上と言うことが判明しているが、金触媒のご研究はノーベル賞候補として採り上げられたことがある。この仕事を機会に、反応が起こる場としての触媒の機能のすばらしさや表面の理解の重要性を再認識したものである。当時、大気中でのオゾン破壊現象は単なるラジカル反応と思い込んでいたが、最近、放送大学を見ていると、この反応は大気中に生成する氷の粒の表面で起こると理解されていると説明されていた。つまり、氷の表面が無いとオゾン分解反応は起こらないということである。
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南極大陸の上空には上昇気流中に氷の粒ができるので、オゾンが分解するが、大陸のない北極では基本的には下降気流であり、氷の粒がないため、分解反応が起こらない、氷の表面が触媒として機能しているという事であった。ここでも、”吸着無くして反応無し”である。燃料電池用触媒の研究やFCDICの編集などでご一緒にして頂いた東京農工大名誉教授の永井正敏先生がFCDICの初心者向けセミナーである寺子屋式講習会で最初に強調された言葉である。とにかく、複雑な大気現象を理解するのは大変だが、温暖化等にも関わることであり、大気科学は継続的に勉強する必要があるとあらためて感じた次第である。

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